「障がい者雇用に取り組まなければならないが、何から始めればよいか分からない」「採用しても定着してもらえるか不安」と感じている中小企業の経営者や人事担当者もいるのではないでしょうか。
2026年7月から、民間企業の障害者法定雇用率は2.7%となり、対象となる企業の範囲も常用雇用労働者37.5人以上へ広がっています。
しかし、障がい者雇用を法定雇用率への対応だけで考えると、「とにかく採用すること」が目的になりやすく、採用後の職務設計や支援体制が不十分になることがあります。
重要なのは、自社の業務を整理し、本人が能力を発揮できる仕事を設計し、職場全体で働き続けられる仕組みをつくることです。この記事では、中小企業の経営という視点から、障がい者雇用を採用から定着まで進めるポイントを解説します。
この記事で分かること
- 2026年の障害者法定雇用率
- 障がい者雇用を経営戦略として考える方法
- 障がいのある方に任せる仕事の作り方
- 合理的配慮と受入体制の考え方
- 採用後の定着を支える方法
- ジョブコーチなど外部支援の活用方法
目次
1.障がい者雇用を取り巻く環境
障がい者雇用は、一部の大企業だけが取り組むものではなくなっています。
法定雇用率の引き上げにより、これまで障がい者雇用を本格的に検討してこなかった中小企業でも、採用や受入体制について考える必要性が高まっています。
1-1.法定雇用率は2.7%へ
2026年7月から、民間企業の障害者法定雇用率は2.7%となりました。
これに伴い、障害者雇用率制度の対象となる民間企業の範囲も、常用雇用労働者40.0人以上から37.5人以上へ広がっています。
たとえば、常用雇用労働者が100人であれば、法定雇用率2.7%をもとに必要な雇用人数を確認することになります。
対象企業にとって障がい者雇用は、経営者や人事担当者が把握しておくべき経営課題の一つです。
1-2.採用だけでは解決しない
法定雇用率を意識すると、「何人採用すればよいか」に目が向きやすくなります。
しかし、障がい者雇用では採用後にどの仕事を任せるのか、誰が指導するのか、困ったときに誰へ相談するのかまで設計しておかなければなりません。
採用人数だけを目標にすると、仕事内容が十分に用意されていない、担当者だけに支援が集中する、本人が職場で孤立するといった問題につながることがあります。
障がい者雇用を安定させるには、採用前から職務と職場環境を考えておくことが重要です。
2.義務から経営戦略へ
障がい者雇用は、法律上の義務への対応として始める企業も少なくありません。
しかし、実際の経営では「障がい者を何人採用するか」だけではなく、「自社のどの仕事を、誰に、どのような方法で担ってもらうか」を考える必要があります。
この視点に変えると、障がい者雇用は人材配置や業務改善の一部として考えられるようになります。
たとえば、専門職や営業担当者が、本来の仕事とは別にデータ入力、書類整理、発送準備、清掃などを行っている企業があります。
こうした業務を整理し、仕事として切り出すことができれば、既存社員が本来の業務へ集中しやすくなる場合があります。
重要なのは、「障がい者を人手不足の穴埋めとして使う」という考え方ではありません。
自社の業務を見直し、本人の能力や希望と仕事を適切に組み合わせることが、人材戦略としての障がい者雇用につながります。
経営の視点
「障がい者に何をしてもらうか」から考えるのではなく、「社内にはどのような仕事があり、どの仕事を誰が担うと組織全体が効率的になるか」から考えることがポイントです。

3.最初に自社の業務を整理する
障がい者雇用を始めるとき、いきなり求人票を作る必要はありません。
まず行いたいのが、自社で行われている業務の整理です。
部署ごとに日常業務を洗い出してみると、担当者でなくても行える仕事や、一つひとつは短時間でも合計すると大きな負担になっている仕事が見つかることがあります。
- データ入力
- 書類のPDF化
- ファイル整理
- 郵便物の仕分け
- 商品の検品
- 梱包・発送準備
- 備品管理
- 清掃
こうした業務を洗い出したうえで、頻度、必要時間、難易度、納期、必要な判断などを整理します。
すると、「一人分の仕事がない」と思っていた企業でも、複数部署の業務を組み合わせることで、一つの職務を設計できる場合があります。
4.障がい者向けの仕事を作らない
障がい者雇用を考えると、「障がい者には簡単な仕事を任せればよい」と考えてしまうことがあります。
しかし、障害名だけでできる仕事・できない仕事を決めることは適切ではありません。
同じ障害名であっても、得意なこと、苦手なこと、必要な配慮は一人ひとり異なります。
また、単純作業であれば誰にでも向いているとは限りません。繰り返し作業が得意な方もいれば、変化のある仕事や人と関わる仕事の方が能力を発揮しやすい方もいます。
最初から「障がい者用の仕事」を作るのではなく、自社に必要な業務を整理したうえで、本人の能力や希望との組み合わせを考えることが重要です。
5.本人に合わせて仕事を調整する
仕事を決めたら、そのまま任せるのではなく、本人が取り組みやすい方法へ調整します。
たとえば、「倉庫の商品を確認しておいて」という曖昧な指示ではなく、「棚Aの商品を上から順番に確認し、数量をこの表へ入力する」と具体化する方法があります。
口頭だけでは理解しにくい場合は、写真入りの手順書やチェックリストを用意する方法もあります。
一方で、最初から過度に細かなマニュアルを作る必要がない場合もあります。
本人と実際に仕事をしながら、どの部分で困るのかを確認して必要なところを調整していく方が効果的なこともあります。
職務設計では、本人を仕事に無理に合わせるのではなく、仕事の教え方や工程を見直す視点も重要です。
6.合理的配慮を仕組みにする
障害者雇用促進法では、事業主に障害者への合理的配慮の提供が義務づけられています。
合理的配慮とは、本人が能力を発揮して働くうえで支障となっている事情について、本人と企業が話し合い、過重な負担にならない範囲で必要な措置を検討するものです。
配慮には、必ずしも大規模な設備投資が必要なわけではありません。
- 指示を一つずつ伝える
- 口頭だけでなく文字でも伝える
- 定期的に面談する
- 休憩の取り方を調整する
- 席の配置を工夫する
- 通院について勤務時間を調整する
必要な配慮は本人によって異なります。
重要なのは、障害名から会社側だけで判断するのではなく、「仕事をするうえで何に困っているか」「どのような方法なら働きやすいか」を本人と確認することです。

7.採用前に受入体制を整える
障がい者雇用では、採用活動を始める前に、社内の受入体制をある程度整理しておくことが重要です。
最低限、誰が仕事を教えるのか、日常的な相談は誰が受けるのか、体調に変化があった場合は誰へ報告するのかを決めておきます。
直属の上司だけにすべてを任せると、担当者の負担が大きくなることがあります。
人事担当者、現場責任者、指導担当者などで役割を分けておくと、問題が起きたときに対応しやすくなります。
また、一緒に働く社員にも必要な範囲で障がい者雇用の目的や関わり方を共有しておくことが大切です。
本人の障害や個人情報を必要以上に共有するのではなく、職場でどのように仕事を進めるのかという実務的な情報を整理します。
8.採用後は定着を支援する
採用できた時点が障がい者雇用のゴールではありません。
入社後に実際の仕事を始めると、面接や職場実習では分からなかった課題が出てくる場合があります。
たとえば、仕事自体は問題なくできても、「質問するタイミングが分からない」「予定変更が続くと混乱する」「疲れていても自分から休憩を申し出られない」といった課題が見つかることがあります。
こうした問題は、本人の能力不足と決めつけず、仕事内容や指示方法、職場環境との組み合わせを確認します。
入社直後は短い間隔で面談し、安定してきたら面談の頻度を調整する方法もあります。
問題が大きくなってから対応するのではなく、小さな変化を早めに確認する仕組みを作ることが定着につながります。
9.管理職だけに任せない
障がい者雇用がうまくいかない原因の一つに、特定の担当者へ負担が集中することがあります。
現場責任者が仕事の指示、本人との面談、人事への報告、支援機関との連絡まで一人で担当すると、担当者自身が疲弊する可能性があります。
そこで、社内で役割を分担します。
- 日々の作業指導を行う人
- 定期面談を行う人
- 労務管理を行う人
- 外部支援機関と連絡する人
中小企業では一人が複数の役割を担う場合もありますが、「誰が何を担当するのか」を明確にするだけでも対応しやすくなります。
障がい者雇用を担当者個人の善意や経験だけに依存させず、会社の仕組みとして運用することが重要です。

10.外部支援を活用する
障がい者雇用の受入体制を、すべて企業内だけで作る必要はありません。
課題に応じて、ハローワーク、地域障害者職業センター、就労支援機関などへ相談できます。
たとえば地域障害者職業センターでは、ジョブコーチによる職場適応支援を行っています。
ジョブコーチは障がいのある本人だけを支援するものではありません。企業に対しても、仕事の教え方、職務内容、必要な配慮、本人との面談方法などについて助言を行います。
ジョブコーチ支援は、雇用後に問題が起きてから利用するだけでなく、雇用前の職場実習、採用時、雇用後などの段階で利用できる場合があります。
外部支援を利用することで、企業担当者がすべてを一人で考える必要がなくなります。
ただし、支援機関やジョブコーチが日常の職場管理を企業の代わりに行うわけではありません。
外部支援を活用しながら、最終的には社内で継続して支援できる仕組みをつくることが重要です。
外部支援は企業側も利用できる
「本人を支援してもらう」という考え方だけでなく、「企業が仕事の教え方や受入方法について相談する」という使い方ができます。
11.制度や助成金を確認する
障がい者を雇用する企業が利用できる支援制度や助成金があります。
対象となる制度は、採用する方の状況、雇用条件、企業側の取組内容などによって異なります。
そのため、「障がい者を雇用すれば必ず助成金を受け取れる」と考えるのではなく、採用前にハローワークや関係機関へ確認することが重要です。
また、助成金を受けること自体を障がい者雇用の目的にすることはおすすめできません。
まず自社に必要な人材や仕事を整理し、その雇用を安定させるために利用できる制度があるかを確認するという順番が基本です。
12.障がい者雇用のよくある質問
Q.法定雇用率を満たせば障がい者雇用は十分ですか?
法定雇用率への対応は重要ですが、人数を満たすことだけで障がい者雇用が完成するわけではありません。
本人が能力を発揮し、継続して働ける仕事内容や職場環境を整えることも重要です。
Q.障がい者には簡単な仕事を任せればよいですか?
障害のある方に一律に簡単な仕事が向いているわけではありません。
本人の経験、能力、得意不得意、希望などを確認したうえで仕事内容を考える必要があります。
Q.合理的配慮には大きな費用が必要ですか?
必ずしも大きな設備投資が必要とは限りません。
指示方法を変える、手順書を用意する、面談方法を調整するなど、仕事の進め方を工夫することで対応できる場合もあります。
Q.どの仕事を任せればよいか分かりません
まず、社内で現在行われている業務を細かく洗い出してみましょう。
複数の社員が少しずつ行っている定型業務をまとめることで、新しい職務を設計できる場合があります。
Q.採用後にうまくいかなくなったらどうすればよいですか?
本人だけの問題と考えず、仕事内容、指示方法、勤務時間、職場環境などを確認します。
社内だけで整理することが難しい場合は、ハローワーク、地域障害者職業センター、ジョブコーチなど外部支援へ相談する方法があります。
Q.中小企業でも障がい者雇用に取り組めますか?
企業規模だけで障がい者雇用の可否が決まるわけではありません。
中小企業では担当者や配置できる人員が限られる一方、本人の状況に応じて仕事やコミュニケーション方法を柔軟に調整しやすい場合もあります。
まずは自社の業務と受入体制を確認し、必要に応じて外部支援を活用しながら進めることが大切です。
まとめ|採用から定着までを経営課題として考える
障がい者雇用は、法定雇用率を満たすためだけの取組ではありません。
- 2026年7月から民間企業の法定雇用率は2.7%
- 対象となる民間企業の範囲は37.5人以上
- 採用前に社内の業務を整理する
- 障害名だけで仕事内容を決めない
- 本人の能力や希望に合わせて職務を調整する
- 合理的配慮を本人と確認する
- 採用前から受入体制を作る
- 採用後の定着まで支援する
- 担当者一人に支援を集中させない
- ジョブコーチなど外部支援も活用する
障がい者雇用を人材戦略として考えるということは、障がいのある方を特別な人材として扱うことではありません。
自社にどのような仕事があり、どのような人材が必要なのかを整理し、一人ひとりが能力を発揮しやすい仕事と職場環境を設計することです。
その結果として、既存社員の業務整理、仕事の標準化、コミュニケーション方法の見直しなど、障がいのある社員だけでなく職場全体にとって働きやすい環境につながる可能性があります。
採用人数だけを追うのではなく、採用前の職務設計から採用後の定着までを一つの経営課題として取り組むことが、持続可能な障がい者雇用につながります。