障害者雇用を検討する企業からは、「採用するとどのくらい費用がかかる?」「設備投資が必要?」「現場の負担が増えないか」といった声があります。
障害者雇用のコストは、給与や採用費だけではありません。仕事内容の整理、指導担当者の配置、職場環境の調整、合理的配慮、採用後のフォローなど、受入体制を整えるための時間や人的負担も含めて考える必要があります。
一方で、障害者雇用を「コストだから避ける」「雇えば必ず利益につながる」と単純に判断することも適切ではありません。どの仕事を任せるのか、どのような支援が必要なのか、自社で継続できる体制なのかを具体的に整理することが重要です。
この記事では、中小企業を中心に、障害者雇用で発生しやすい費用や社内負担、業務の切り出し方、合理的配慮、採用後の定着支援、外部支援の活用まで、雇用前に確認したいポイントを解説します。
この記事で分かること
- 障害者雇用で考えたい主なコスト
- 採用前に発生する準備や人的負担
- 業務の切り出しを行う方法
- 合理的配慮にかかる費用の考え方
- 採用後の定着支援で必要なこと
- 外部支援を活用して社内負担を整理する方法
目次
1.障害者雇用のコストとは
障害者雇用にかかるコストというと、まず給与や社会保険料などの人件費を思い浮かべるかもしれません。
しかし、実際にはそれ以外にもさまざまな準備が必要です。
- 求人・採用活動
- 仕事内容の整理
- 職場見学や実習への対応
- 仕事を教える担当者の配置
- 作業手順書の作成
- 設備や職場環境の調整
- 合理的配慮への対応
- 採用後の面談やフォロー
大きな設備投資が必要な場合もあれば、指示方法を変えるだけで対応できる場合もあります。
そのため、「障害者を一人雇用するといくらかかる」と一律に金額を出すことはできません。
企業ごとの仕事内容、職場環境、本人の状況、必要な配慮によって異なります。

2.採用前に必要なコスト
障害者雇用では、採用する前の準備が重要です。
2-1.仕事内容を整理する時間
最初に確認したいのが、「採用した人にどの仕事を任せるか」です。
「障害者雇用をしなければならないから採用する」という順番だけで進めると、採用後に仕事がなくなる場合があります。
例えば事務職であれば、職種全体ではなく次のような作業単位に分けます。
- データ入力
- 書類整理
- スキャン
- 郵便物の仕分け
- 資料の印刷
- 備品管理
製造業や物流業であれば、検品、数量確認、袋詰め、ラベル貼り、梱包など、工程単位で確認します。
この業務整理には、現場担当者へのヒアリングや作業時間の確認など、一定の社内工数がかかります。
2-2.求人・採用にかかる費用
障害者雇用でも、一般の採用と同様に求人や面接などの採用活動が必要です。
- 求人内容の作成
- 求人媒体の利用
- ハローワークとの相談
- 応募者との面接
- 職場見学への対応
- 必要に応じた職場実習
利用する採用方法によって費用は異なります。
ハローワークや支援機関など外部機関と連携する場合は、どこまで支援を受けられるか事前に確認しておくとよいでしょう。
2-3.受入体制を整える負担
採用する人が決まっても、受入担当者が決まっていなければ職場で混乱することがあります。
少なくとも次の役割は整理しておきます。
- 仕事を教える人
- 日々の指示を出す人
- 勤怠について相談する人
- 困ったときの相談窓口
- 外部支援機関との連絡担当者
担当者の時間も企業にとってはコストです。
障害者雇用だけに限らず、新しく人を採用すれば教育や引き継ぎは必要ですが、本人の状況に応じて指示方法や環境を調整する時間が必要になる場合があります。
3.雇用後に発生するコスト
雇用開始後には、給与などの人件費に加えて、日々の業務管理や職場定着のための対応が必要になります。
- 業務指導
- 定期面談
- 仕事内容の見直し
- 作業手順の調整
- 勤務時間や通院への対応
- 外部支援機関との連絡
すべての障がいのある従業員に特別な対応が必要というわけではありません。
一方で、「一度仕事を教えれば、その後は何も調整しなくてよい」と考えると、仕事内容や本人の状態が変化したときに対応が遅れることがあります。
採用時だけでなく、働き始めてからのフォローも含めて体制を考えます。
4.合理的配慮にかかる費用
障害者雇用では、合理的配慮についても確認が必要です。
雇用分野では、障がいのある方が能力を発揮するうえで支障となっている事情を改善するため、事業主には合理的配慮の提供が求められています。
合理的配慮というと、大規模な設備改修を想像する企業もありますが、実際の内容は本人の状況によって異なります。
- 口頭指示を手順書でも示す
- 一度に出す指示を整理する
- 相談する担当者を明確にする
- 作業場所を調整する
- 通院について勤務時間を相談する
- 必要な補助機器を検討する
ほとんど費用が発生しない配慮もあれば、設備や機器に費用がかかる場合もあります。
合理的配慮は障害名だけで一律に決めるものではありません。本人と話し合い、実際の仕事で何が支障になっているのかを確認して検討します。
また、事業主に過重な負担となる場合は合理的配慮の提供義務の例外となります。費用だけでなく、企業規模や事業への影響なども含めて個別に判断されます。

5.業務の切り出しで考えること
障害者雇用を始める際に、「どの仕事を任せればよいか分からない」という企業は少なくありません。
この場合、部署単位や職種単位ではなく、実際の作業単位まで分解して考えます。
例えば営業担当者が行っている業務の中に、次のような仕事が含まれているとします。
- 顧客への訪問
- 見積書作成
- 資料印刷
- データ入力
- 郵送準備
- 書類整理
すべてを一人の新規採用者へ任せる必要はありません。
既存社員が行っている業務の一部を整理し、新しい担当業務として組み合わせる方法があります。
ただし、「障がい者にやってもらうための仕事」を無理に作るのではなく、本当に会社で必要な仕事なのか、継続的に業務量があるのかを確認することが重要です。
業務切り出しは業務改善の確認にもなる
仕事内容を工程単位で整理すると、「誰が何をしているか」「本当に必要な作業か」「担当者しか分からない仕事になっていないか」など、現在の業務フローを確認する機会にもなります。ただし、障害者雇用を行えば自動的に業務効率が向上するという意味ではありません。
6.人件費だけで判断しない
障害者雇用を経営として考える場合、給与だけを見て「高い・安い」と判断するのでは不十分です。
どのような仕事を担当してもらうのか、その仕事が会社にとってどのような役割を持つのかを確認します。
例えば、これまで営業担当者が毎日行っていた定型的な入力業務を別担当へ分けることで、営業担当者が別の業務に時間を使える可能性があります。
ただし、その効果は企業や仕事内容によって異なります。
「障害者を雇用すれば生産性が上がる」と最初から決めるのではなく、実際の業務量や担当時間を確認して判断することが必要です。
経営上は、採用後に想定していた役割を担えているかを定期的に確認します。
7.社内担当者の負担を整理する
障害者雇用で見落とされやすいのが、指導担当者や管理者の負担です。
一人の社員へ指導や相談対応を集中させると、担当者の通常業務に影響することがあります。
次のように役割を分けて考えます。
- 日常の作業指示
- 勤怠管理
- 面談
- 人事上の判断
- 合理的配慮の相談
- 外部支援機関との連絡
すべてを直属の上司だけで担当する必要はありません。
現場、人事、経営者などで役割を整理し、誰に相談すればよいか本人にも分かる状態にしておきます。
担当者が休んだときにも対応できるよう、必要な情報を組織内で適切に共有することも重要です。
8.定着支援にかかるコスト
採用できれば障害者雇用が完了するわけではありません。
働き始めた後に、仕事内容や勤務環境が本人に合っているかを確認します。
- 予定した仕事を行えているか
- 仕事量に無理がないか
- 指示方法は分かりやすいか
- 相談できる相手がいるか
- 必要な配慮に変化がないか
- 体調と勤務を両立できているか
仕事内容や上司が変われば、以前は問題なかった方法が合わなくなる場合もあります。
定期的な面談などにも担当者の時間が必要ですが、課題を把握せず長期間放置することも企業にとってリスクになります。
必要に応じて、本人が利用している就労支援機関などと連携する方法もあります。

9.外部支援を活用する
障害者雇用の受入体制をすべて企業内だけで作る必要はありません。
課題に応じて、ハローワーク、地域障害者職業センター、就労支援機関などへ相談できます。
大阪障害者職業センターでは、ジョブコーチが企業を訪問し、障がいのある本人と企業の双方を支援しています。
例えば、企業側の「仕事をどう教えればよいか」「どの職務を任せればよいか」といった相談に対し、作業手順や職務の調整などについて支援を行っています。ジョブコーチ支援は、雇用前の職場実習、採用時、雇用後の各段階で利用できる場合があります。
外部支援を利用することで、企業の担当者がすべてを一人で考える必要がなくなります。
ただし、外部支援者が日常の職場管理を企業の代わりに行うわけではありません。最終的には企業内で仕事を教え、相談できる体制を作る必要があります。
10.助成制度は事前に確認する
障害者雇用に関しては、雇入れや職場環境整備などを対象とする支援制度が設けられている場合があります。
ただし、「障害者を採用すれば必ず助成金がもらえる」というものではありません。
制度ごとに対象となる事業主、労働者、雇用条件、申請時期などの要件があります。また、制度内容は改正されることがあります。
そのため、採用後に制度を探すのではなく、採用や設備導入を行う前にハローワークや関係機関へ確認することが重要です。
助成金の利用を前提に採用計画を立てるのではなく、助成が終了した後も継続できる雇用なのかを含めて考えます。
11.経営として何を確認する?
障害者雇用を経営の視点で考える場合、「利益が出るか」だけで判断するのではなく、雇用の目的と実際の業務を確認します。
- なぜ障害者雇用を進めるのか
- どの部署に仕事があるのか
- 継続的に任せられる仕事か
- 誰が指導を担当するのか
- 必要な配慮へ対応できるか
- 採用後に相談できる体制があるか
- 外部支援をどこまで活用できるか
また、法定雇用率の対象となる企業では、制度上必要な対応も確認します。
2026年7月から、民間企業の法定雇用率は2.7%となっています。対象となる企業は、制度の最新情報を厚生労働省や大阪労働局で確認してください。
法定雇用率への対応と、実際に働き続けられる職場づくりは両方を考える必要があります。
12.障害者雇用のよくある質問
障害者雇用は一般採用より費用がかかりますか?
一律には言えません。設備変更が必要な場合もあれば、仕事の指示方法を変えるだけで対応できる場合もあります。本人の状況や仕事内容によって必要な対応は異なります。
合理的配慮には必ず費用がかかりますか?
必ずしも費用が発生するわけではありません。手順書を用意する、指示を整理する、相談担当者を決めるなど、運用方法の変更で対応できる配慮もあります。
障がいのある人向けの仕事を新しく作る必要がありますか?
必ずしも必要ありません。現在社内にある仕事を工程ごとに分け、継続的に任せられる業務がないか確認する方法があります。
障害者雇用をすると生産性は上がりますか?
雇用しただけで生産性が上がるとは言えません。業務の切り出しや分担によって既存社員の業務が変わる可能性はありますが、実際の効果は企業や仕事内容によって異なります。
助成金を使えば負担をなくせますか?
制度によって一部の費用等が対象となる場合がありますが、すべての負担がなくなるわけではありません。また、対象要件や申請時期があるため事前確認が必要です。
採用後の支援を外部機関へ任せられますか?
外部機関から支援を受けられる場合がありますが、日常的な業務指示や労務管理など、企業が担う役割まで外部へ任せるものではありません。
中小企業はどこへ相談すればよいですか?
ハローワークや地域障害者職業センターなどが相談先になります。また、本人が利用している就労支援機関と、本人の同意を踏まえて連携する方法もあります。
まとめ
障害者雇用のコストは、給与や採用費だけではありません。仕事内容の整理や教育、合理的配慮、職場環境の調整、採用後の定着支援なども含めて考える必要があります。
- 採用前に任せる仕事を具体的に整理する
- 採用活動や職場見学などにも社内工数がかかる
- 仕事を教える担当者と相談担当者を決める
- 合理的配慮は本人の状況に応じて検討する
- 設備投資を伴わない配慮もある
- 業務切り出しでは会社に必要な仕事か確認する
- 障害者雇用だけで生産性向上を断定しない
- 採用後の面談や定着支援も計画する
- 必要に応じて外部支援を活用する
- 助成制度は実施前に最新要件を確認する
大切なのは、「障害者雇用はコストか投資か」という二択で考えることではありません。
自社に必要な仕事があり、その仕事と人材を適切に組み合わせ、継続して働ける体制を作れるかを確認することが重要です。
まずは採用人数を決める前に、自社の業務を棚卸しし、「誰が・どの仕事を・どのくらいの時間行っているか」を整理するところから始めてみましょう。
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