障がい者就労支援の現場で注目される動機づけ面接(MI)の効果を詳しく解説。面接・支援技法を通じて利用者の不安を前向きに変え、働く意欲を高める支援実践や成功事例を紹介し、自立と働き方改革の可能性を示します。
はじめに
障がい者就労支援の現場では、利用者が自らの意欲を持ち、働くことを継続できるよう導くことが求められています。そのために重要となるのが「面接・支援技法」の選択です。中でも動機づけ面接(MI)は、利用者の内的動機を引き出し、前向きな行動変容を促す効果的な手法として注目されています。本記事では、MIの基礎と意義、就労支援での具体的な活用法、そして今後の展望を解説します。
1. 動機づけ面接(MI)の基礎と意義
1-1)動機づけ面接とは何か
動機づけ面接(MI)は、心理学に基づく対話型の支援技法で、相手の内的動機を引き出し、自ら行動を選択する力を高めることを目的としています。障がい者就労支援の現場では、利用者が「やらされている」と感じるのではなく、自分で納得して行動できるよう促す点で効果的です。支援者が利用者の言葉に耳を傾け、共感を示しながら対話を進めることで、本人の中に眠る意欲を呼び覚まし、働き方に対する前向きな姿勢を引き出します。
1-2)障がい者就労支援における役割
MIは、利用者の自己決定を尊重する姿勢を軸に、障がい者就労支援において重要な役割を果たします。例えば、働き続ける自信が持てない利用者に対しても、「できること」に焦点を当て、過去の成功体験を振り返らせることで、新たな挑戦意欲を引き出します。このアプローチにより、支援者主導ではなく利用者自身が主体的に選択できる環境が整い、自立や継続的な就労につながります。MIは利用者支援を根本から支える技法といえます。
1-3)他の面接・支援技法との違い
従来の面接・支援技法では、問題点を明確化し、解決策を提示する手法が多く用いられてきました。しかしMIは、解決を外部から与えるのではなく、利用者の内側にある答えを引き出す点で大きく異なります。支援者が利用者に「どうすべきか」を指示するのではなく、「どうしたいか」を探ることで、利用者自身が主体的に行動できる土台をつくります。この違いは、障がい者の働き方支援において長期的なモチベーションを支える大きな特徴です。
2. 就労支援現場での動機づけ面接の活用法
2-1)利用者の内的動機を引き出す会話技術
MIでは、利用者の内的動機を引き出すために「開かれた質問」「反映的傾聴」「肯定的フィードバック」といった会話技術を用います。例えば「なぜ働きたいと思ったのですか?」という問いかけや「その努力は素晴らしいですね」といった承認の言葉は、利用者の自己効力感を高めます。障がい者就労支援の場では、こうした対話を通じて利用者の潜在的な意欲を顕在化させ、働き方の選択肢を広げる支援につなげることが可能です。
2-2)働き方の課題を整理し前向きに変える方法
利用者の中には「失敗が怖い」「長く続けられるか不安」といった課題を抱える人が少なくありません。MIでは、これらの不安を一方的に否定せず、丁寧に受け止めた上で、新たな意味づけを行います。例えば「失敗を恐れる気持ち」は「丁寧さの証」と捉えることで前向きな行動を促せます。こうした支援により、利用者は自分の課題を成長の糧として受け入れ、安心して働き方を改善できるようになります。
2-3)信頼関係を深める面接スキル
MIを効果的に活用するには、利用者との信頼関係が不可欠です。そのためには、評価や指示を最小限に抑え、利用者の語りを尊重する姿勢が求められます。共感的に聴き、利用者が本音を話せる環境をつくることで、対話の中から自然に意欲や強みが引き出されます。この関係性が築かれると、支援は「やらされるもの」ではなく「共に考えるもの」へと変わり、働き方支援の効果が大きく高まります。
3. 動機づけ面接の実践事例と今後の展望
3-1)就労継続支援A型での成功事例
あるA型事業所では、通所が不安定だった利用者にMIを用いた面接を行いました。利用者の「働きたいけれど体調が心配」という本音を引き出し、少しずつ通所時間を増やすプランを本人と一緒に決定。その結果、半年後には安定した勤務につながりました。この事例は、利用者主体の働き方を実現するうえで、MIが有効に機能することを示しています。
3-2)就労移行支援での応用可能性
就労移行支援では、一般就労を目指す利用者が「自分にできるか不安」と感じる場面が多くあります。MIを活用することで、利用者は自分の強みや希望を言語化でき、自信を持って面接や職場実習に臨めるようになります。さらに、支援者が一方的に目標を決めるのではなく、利用者と共に計画を立てることで、定着支援にもつながります。MIは移行支援の現場においても大きな可能性を秘めています。
3-3)福祉現場における今後の展望
今後の障がい者就労支援では、動機づけ面接を体系的に導入することで、支援の質を高めることが期待されます。支援者がMIを習得し、個別支援計画に組み込むことで、利用者一人ひとりの主体性を最大限に活かせます。また、企業や地域と連携する際にも、利用者の意欲を適切に伝える手法として機能するでしょう。MIは、福祉現場における働き方改革のカギを握る技法といえます。
まとめ
動機づけ面接(MI)は、障がい者就労支援において利用者の意欲を引き出し、働き方を改善する有効な面接・支援技法です。不安や課題を肯定的に捉え直し、主体的な行動を促すことで、就労継続や一般就労への移行がスムーズになります。今後は支援現場での活用がさらに進み、利用者の自立支援と共生社会の実現に大きく貢献していくことが期待されます。
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